ガンマ線のお話



 ガンマ線と聞けば、何を思い浮かべるでしょうか?病院?ええ、「コバルト照射」などと呼ばれてガンなどの治療に使われてますね。広島や長崎がやられた原爆?そう、悲しい事実ですね。あの原爆から出た放射線が中性子線とガンマ線でした。そして、それを浴びたたくさんの人々が白血病やガンで亡くなりました。

 今、ガンマ線は放射線だと言いましたが、一体どんな放射線なのでしょうか?



【ガンマ線の正体】

 ガンマ線はレントゲン撮影でおなじみのエックス線と同じ仲間の放射線です。同じ仲間といったのは、両方とも光の家族だからです。光は振動している波です。

 そして、1秒間に地球を7.5回回るスピードを持っていることはよく知られていますね。エックス線もガンマ線も同じなのです。私たちに無限の恵みを与えてくれる太陽の光は、太陽から約500秒かかって地球に届くのですが、実はいろんな波長を持った光の集団なのです。

 日焼けの犯人である紫外線は短い波長を持った光です。どのくらいかと言えば、1センチの4万分の1程度なのです。ところが、エックス線の波長は、さらにその100分の1以下、コバルトから出るガンマ線となると、紫外線の波長のなんと25万分の1くらいになってしまいます。もう想像もできませんね。目に見える光の波長はせいぜい3万分の1センチまでですから、エックス線やガンマ線は目に決して見えないのです。

 さて、エックス線がレントゲン撮影に使われるのは、この放射線が物をよく通すからですね。ガンマ線も同じ性質を持ってます。たとえばガンマ線を元の強さの10分の1に弱めるためには、鉛のブロックなら、約4センチの厚さが必要ですし、コンクリートなら27センチ、水なら40センチの水槽が必要になります。

* 隣の画像は、実際に使用している鉛ブロックを立てて撮影してみました。下に4センチの目盛りを入れてみましたが、厚みはそれよりもう少しあります。

 では、次にガンマ線はどんな時に出るのかお話ししましょう。原子って知ってますね? たとえば、一番軽い原子は水素ですが、これは原子核と呼ばれる堅い芯の周囲に電子が一つ高速でぐるぐる回っているものです。原子の種類が違うと、芯である原子核の重さも違いますし、外側を回る電子の数も違います。さて、この原子核は普通は永久に同じ顔かたちを保っているのですが、中にはすぐ変身して、別の原子核に変わるものがあります。変身は光を放って行われます。この光がガンマ線なのです。

 ガンマ線がどれほどの量であるか測るのに、ベクレルという単位を使います。この単位は比較的最近スタンダードになりましたが、以前はキュリーという単位を使用し、これは発見者であるキュリー夫妻にちなんでつけられました。1ベクレルとは、1秒間に1個の原子核が変身するのに相当します。変身=崩壊する数が多いほどガンマ線は強いわけですね。原子炉実験所にあるガンマ線照射装置はコバルトから出るガンマ線を利用する物で、414テラベクレルの強さです。

ところで、これら不安定な原子核の崩壊は絶えず続いています。人間の力で止めることはできません。ですから、ガンマ線も絶えず発生していることになります。もちろん、崩壊する原子核の数はだんだん少なくなりますから、ガンマ線の強さも時が経つにつれ弱くなります。

 なお、横の絵は、コバルト60が崩壊していって、安定なニッケル60に変わって行く様子をマンガ化したものです。「時間が経過していくと、弱っていくのかな?」というような感じで受け止めていただければ結構です。

コバルトのガンマ線の強さが半分になるのには約5年かかります。

 とにかく、絶えずガンマ線は出ているのですから、この放射線が外に漏れないように十分注意しなくてはなりません。そこでコバルト−60は普段薄い鉛の容器の中に保管されています。
(こんな感じで保存されてます)
 また、ガンマ線を当てる実験は、1メートル以上の厚さのコンクリート壁でできた部屋の中で行われているのです。

  •  ちなみに、照射室の中はこのような感じになっています。



    【ガンマ線の利用】

     まず、滅菌に使われます。たとえば、使い捨て注射器や手術用の糸や、人工腎臓等にガンマ線をあてて、細菌を殺してから使います。まあ「放射線による消毒」といったところですね。同じ目的で動物の飼料にもガンマ線があてられています。

    * ちなみに、横の画像は実際にサンプルのガラス管を照射してみたもので、左側が照射前、右側が照射後。ガンマ線の影響で、これだけはっきりと色がつきます。余談ですが、照射室の覗き窓も鉛ガラスですが、30年近く経過しているにも関わらず、カラーセンターがつきにくいようです。

     北海道の農協などでは、ジャガイモの発芽を抑え、長期保存するために使われてます。さらに、農林水産省では、稲や麦、大豆等の育種のために使われ、今までにいくつかの改良品種が作られてきました。

     ガンマ線をあてて、丈夫で光沢のある床材が作られています。最近のちょっと変わった例では、沖縄に発生した害虫のウリミバエを撲滅するために、ガンマ線をあてて作った不妊のウリミバエを多量に飼育し、それらを野に放って子孫を断つ作戦を行っています。